skyfall

cinemania’s diary

作られなかった映画たち① ジェームズ・キャメロン編

f:id:cinemania:20190301070635j:plain

キャメロン脚本の『スパイダーマン



 ジェームズ・キャメロンは、まず脚本家としてハリウッドに認められた。『ターミネーター』を映画化するため、さまざまな製作会社にシナリオを送付し、その面白さが業界で評判となったのだ。新人ながら『エイリアン』と『ランボー』という2本のヒット作の続編のシナリオを任されたのが、その証である。のちにキャメロンは『エイリアン2』を自ら監督するが、『ランボー/怒りの脱出』は、主演のシルヴェスター・スタローンによって、内容を大幅に変更されてしまう。

『アビス』を完成させた後、次回作として取り組んだのが、ダニエル・キイスのノンフィクション『24人のビリー・ミリガン』の映画化だった。当時、『アビス』のキャンペーンで来日したキャメロンは、雑誌「Switch」で、黒沢清監督のインタビューを受けた際に、構想を明かしている。(日本で翻訳されベストセラーとなるのは、しばらく後のことである) 同作の権利を持つプロデューサーのサンドラ・アーカラから企画を持ち込まれたキャメロンは、興味を抱き、”The Crowded Room(混み合った部屋)”というタイトルでシナリオを執筆する。ビリー・ミリガン本人を監修役に招き、主演にジョン・キューザックを選ぶなど、企画は順調に進んでいた。これまでの大作映画とは異なり、低予算のアート系映画を作るのがキャメロンの狙いだった。

 しかし、キャメロンが自らの制作会社ライトストーム・エンターテインメントを設立し、20世紀フォックスと高額の契約を結ぶと、アーカラは不満を抱き、”The Crowded Room”を、より大型のプロジェクトとして仕切り直すよう要求し、さらに契約金をめぐってキャメロンを訴える構えを見せた。するとキャメロンは、たちまち興味を失い、企画から離脱した。信頼関係を持てないプロデューサーと仕事を続けるつもりはなかったのである。

 アーカラは、その後も独自に『24人のビリー・ミリガン』の映画化に取り組み、テリー・ギリアムニック・カサヴェテスらが監督候補に挙げられたが実現しなかった。現在では、レオナルド・ディカプリオが自らの制作会社で準備を進めている。

 キャメロンが次に取り組んだのが『スパイダーマン』の映画化である。『ターミネーター2』を製作したカロルコの依頼で執筆した脚本の草稿は、原作者のスタン・リーからも絶賛された。キャメロンの狙いは、大人向けのアメコミヒーロー映画を作ることにあり、暴力シーンやセックス描写、俗語台詞を盛り込み、R指定を想定した内容になっていた。『デッドプール』や『LOGAN/ローガン』が大ヒットする20年も前の話である。

 しかし、原作の発行元であるMARVELは、映画化をめぐる諸権利を複数の会社に売却していた。同社が経営難で一時、倒産したこともあり、それぞれの会社が権利を主張して裁判が同時多発的に行われた。キャメロンは、共同製作を持ちかけたが認められず、企画から降りることにする。のちに、長い裁判の末、ソニーが権利の一本化に成功し、サム・ライミ監督により映画化が実現した。内容はキャメロンのシナリオとは大きく異なっており、主人公が蜘蛛の糸を体内で生成し、手首から噴射するという設定のみが受け継がれている。(原作では、手首に巻き付けた装置から発射される)

タイタニック』の史上空前の大ヒットを経て、キャメロンは複数の企画を進める。『トゥルーライズ2』は、シナリオも完成し、主演のアーノルド・シュワルツェネッガージェイミー・リー・カーティス、トム・アーノルドの3人の再起用も内定していた。しかし、ニューヨークの同時多発テロに直面し、テロリズムをコメディとして描くことはもうできないとして、企画をストップする。

 木城ゆきとの『銃夢』は、アメリカで日本マンガのブームが起こる前から『バトル・エンジェル:アリータ』の題で英訳され、人気を集めていた。キャメロンも愛読しており、20世紀フォックスが映画化権の獲得に乗り出すと、すかさず監督に立候補した。キャメロンは主役のロボット少女を、生身の役者ではなくCGで作り出そうと考え、シナリオや美術設定も完成していた。だが、次回作は『アバター』に決定する。新たな3D技術での映画制作を準備していたキャメロンは、自らの原作であれば、立体視映像をより効果的にするために設定や物語を自由に変えられると考えたのである。

アバター』の完成後、キャメロンは、チャールズ・ペレグリーノのノンフィクション『ザ・ラスト・トレイン・フロム・ヒロシマ』の映画化に取り組む。広島の原爆投下をめぐって、加害者側のアメリカ人と被害者側の日本人、両方に取材したもので、キャメロンは、『アバター』のキャンペーンで来日した際に、独自に取材をするなど準備を進めていた。

 しかし、キャメロンが選んだのは、またしても『アバター』の続編だった。これは、シリーズ4本を一気に制作するという前代未聞のプロジェクトであり、おそらく、このシリーズが最後の監督作品になるだろうと語っている。第2作の公開は2020年12月を予定しており、主要キャストの撮影は、すでに第3作までを終えている。

『アリータ/バトル・エンジェル』は、キャメロンの友人であるロバート・ロドリゲス監督に受け継がれ、2019年に公開された。

参考文献
ジェームズ・キャメロン 世界の終わりから未来を見つめる男』(レベッカキーガン)フィルムアート社
ジェームズ・キャメロンの映像力学』(高橋良平) ビクター
ジェームズ・キャメロン映画と人生―ドリーム・アラウド』(クリストファー・ハード)愛育社
スパイダーマンシークレットファイル』(マーク・コッタ ヴァズ)角川書店
『アルジャーノン、チャーリイ、そして私』(ダニエル・キイス早川書房
”The Greatest Sci-fi Movies Never Made”(David Hughes)
”James Cameron: Interviews”(Brent Dunham)

Variety
Hollywood Reporter
MARVEL.com
朝日新聞
キネマ旬報
Switch