skyfall 映画の記録

cinemania’s diary

作られなかった映画たち デヴィッド・フィンチャー編

 

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『宇宙のランデヴー』のイメージボード

著名な監督であれば、実現しなかった企画をいくつも経験するのが普通である。他からオファーを断る場合もあれば、自ら企画を立ち上げながら完成できなかった場合もある。そんな死亡リストの長さを競うなら、デヴィッド・フィンチャーベニシオ・デル・トロの二人は確実にトップ集団に入るだろう。デル・トロは最近、自分のTwitterで幻に終わった映画たちを供養するツイートをしていたので、ここではフィンチャーを取り上げることにしたい。

 フィンチャーに、幻になった企画が多い理由は、まず、その完全主義にあると言えるだろう。ヴィジュアルに凝りまくり、俳優の演技に満足の行くまで何度もリテイクを出す。撮影期間は伸び、予算はかさみ、スタッフや俳優たちとのあいだに不協和音が流れる。これでは寡作になるのも無理はない。

 フィンチャーのこだわりは、デビュー作の『エイリアン3』で、すでに現れていた。弱冠27歳で、制作費5000万ドルの大作を任される期待の大型新人だったわけだが、決してプロデューサーたちの言いなりにはならなかった。予算は6000万ドルに膨れ上がり、撮影が一時中断したこともあった。主演のシガニー・ウィーバーとも険悪な関係になったという。

 その後も、予算をめぐって企画が消えることが、しばしばあった。ディズニーで進めていたジュール・ヴェルヌの海洋冒険活劇『海底2万マイル』は、『セブン』のアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーによる脚本が完成していたが、フィンチャーが要求した2億ドルの予算が却下され、降板した。アーサー・C・クラークのハードSF『宇宙のランデヴー』は、『2001年宇宙の旅』に匹敵するリアルな未来世界の構築を目指して、21世紀初頭から準備が進められていたが、これも予算が集まらず実現しなかった。

 スティーグ・ラーソンのミステリー小説『ミレニアム』シリーズの第1作を映画化した『ドラゴン・タトゥーの女』も、予算を超過して完成した上、期待されたほどの興行成績をあげなかっため、続編の『火と戯れる女』では、製作会社は予算の緊縮を進めた。フィンチャーはこれに不満を抱き降板している。(のちに、別スタッフにより第4作『蜘蛛の巣を払う女』が映画化)

 ジェイムズ・エルロイノワールブラック・ダリア』は、上映時間は3時間半でモノクロ画面で制作することを要求したため、プロデューサー陣と決裂した。(のちに、ブライアン・デ・パルマ監督により完成)

 また、フィンチャーグラフィックノベルの映画化を何度も試みているが、いずれも実現していない。フランク・ミラー&ジェフ・ダロウの『ハードボイルド』は、平凡な保険員が実は暗殺ロボットだったというSFノワールで、ニコラス・ケイジの主演が予定されていた。『ブラック・ホール』は、10代の若者の間にセックスで感染する奇病が蔓延した世界が舞台の群像劇。『トルソー』は、実在の未解決殺人事件を扱うミステリーで、いずれも過激な描写に満ちたコミックである。

ミッション:インポッシブル3』も、フィンチャーの監督作品として進められていた。しかし、脚本が完成しないうちから、ロケ地やスタントアクションの段取りを決めるトム・クルーズの方法論に疑問を抱き降板する。『エイリアン3』で、脚本が未完成のままクランクインした事から現場が大混乱した経験から、フィンチャーは撮影前の段階で万全の準備が必要であると考えており、こうした慎重な姿勢も、多くの企画が中断になる要因なのだろう。

『MI:III』と同じく、J・J・エイブラムスが監督した『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』も、フィンチャーが当初の監督候補だった。プロデューサーのキャスリーン・ケネディとミーティングを重ねたが、自分が撮るべき作品という確信が持てなかったと、後にイベントで発言している。

 ほかに、フィンチャーがオファーを受けながら降板した作品として、サム・ライミによって実現した『スパイダーマン』、歌手のマドンナのドキュメンタリー『イン・ベッド・ウィズ・マドンナ』、アンソニー・ボーディン原作の『キッチン・コンフィデンシャル』、チャック・パラニューク原作の『ララバイ』、70年代のスケートボード・カルチャーを描く『ロード・オブ・ドッグタウン』、伝記映画『スティーヴ・ジョブズ』、アンジェリーナ・ジョリー主演の『クレオパトラ』、アルフレッド・ヒッチコック監督作のリメイク『見知らぬ乗客』などがある。

 近年のフィンチャーは、ドラマに活路を見出しているようである。Netflixで制作した『ハウス・オブ・カード/野望の階段』は大ヒットとなり、配信ドラマとして初めてエミー賞を受賞している。続く『マインドハンター』も評価が高い。あるインタビューでフィンチャーは、映画よりもドラマのほうがキャラクターを深く掘り下げられると発言している。もっとも、HBOで企画された『ヴィデオシンクレイジー』は中止になり、英国ドラマのリメイクである『ユートピア』から降板するなど、こちらも順風満帆とは言えないようだ。

 2014年の『ゴーン・ガール』以降、新作のないフィンチャーが準備しているのが『ワールド・ウォーZ』の続編である。『セブン』以来の盟友であるブラッド・ピットのたっての希望によるものだが、『フォースの覚醒』の時と同様に、超大作の続編を引き受けることに躊躇しているのか、大きな進展は伝わってこない。もし実現すれば、ゾンビ映画史上最大の予算を投じた作品になるはずである。