cinemania 映画の記録

cinemania’s diary

山田尚子監督、ロンドンで新作『Garden of Remembrance』と過去作を語る。――『けいおん!』は男性向け?『リズと青い鳥』は同性愛物?

人気監督の山田尚子が英国を訪れるのは、この10月が初めてではありませんでした。2012年に開催された「スコットランド・ラブズ・アニメ」のゲストとして『映画けいおん!』の上映会に登壇しているのです。偶然ですが、この映画もロンドンが舞台で、愛らしい軽音部の面々が日本から英国へとやってきました。

それから10年後、山田は再び「スコットランド・ラブズ・アニメ」のゲストとなりました。盛況だったQ&Aで、監督は英国でのかつての体験を懐かしそうに語ってくれました。例えば、スコットランド人はネッシーが存在しないという話を好まないこと、ハイドパークにある郵便箱のような容器は実は犬用であること、マーマイトはあまり美味しくなかったこと。最後の点については、観客の大半は彼女に賛同していました。

しかし、山田はノスタルジーのために海を渡って来たわけではありません。サイエンスSARUで制作した17分の短編『Garden of Remembrance』のワールドプレミア上映があったのです。これは喪失と、その後に訪れるもの――大切な人を失った孤独な少女の単調な暮らしと、その日常が突然に変わっていく様を描いた映画です。歌手のラブリーサマーちゃん、漫画家の水沢悦子とのコラボレーションによる大がかりなミュージックビデオとして作られました。

イベントの数日前、山田はロンドンに立ち寄り、私はそこで彼女にインタビューすることができました。最新作の話や、サイエンスSARUでの近作について尋ねています。またこの機会に、京都アニメーションで手がけた『けいおん!』をはじめとした愛すべき初期作品についても質問してみました。

***

――あなたは、京都アニメーションとサイエンスSARUでお仕事をされていますが、この2つのスタジオは「絵作り」に強い特色があり、ファンであれば、一瞥しただけで両者を見分けることができるでしょう。特に画面上でのキャラクターの動かし方には、はっきりとした美意識が感じられます。その点について何かご見解はあるでしょうか。例えば、ご自身の感性は保ったままスタジオを移れるものなのでしょうか?

山田:京都アニメーションでは、人間の感情をどう描くか、キャラクターの心の中がどのように動くのかを学びました。ただのアニメーションではなくて、彼らが経験していることを、あたかも現実の存在であるかのように描き出すということです。目的はアニメーションを作るというよりも、彼らをいかに現実にいる存在として扱い、現実的な人生を作り出すかということだったのです。私たちの役目は、アニメーターというよりは撮影監督になることでした。つまり、カメラマンの立場から、キャラクターたちが彼らの人生を歩むのに任せるのです。それが、私たちが追い求めたものであり挑戦でした。

その後、サイエンスSARUで『平家物語』を制作したとき、2つのスタジオには明らかな違いがありました。サイエンスSARUでは、アニメーションを動かすことを本当に楽しんでいたのです。アニメーションを作る喜びにあふれていました。異なる方向性がどのように融合していくのか、リアルな存在としてのキャラクターと、アニメーションを作る楽しさ、両方を経験することで、どのような化学反応を起こすのか、私自身も興味津々でしたね。

ですから、『平家物語』に取り組んでいたとき、私は意識的にカメラマンにはならないようにしました。『Garden of Remembrance』でもそうしています。それは『平家物語』で試みたことの発展形であり、今なお試行錯誤しています。ただ、『Garden of Remembrance』は「ぼく」の視点で撮っているので、2つのやり方が混在しています。単にカメラマンになるのではなくて覗き見るという視点です。そこで覗き込んでいるのは男性なんです。

――では、『Garden of Remembrance』は男性目線なのですね。

山田:そうとも限らないですね。この映画には、実は3つの視点が存在しています。1つ目は、描かれている世界からはもういなくなった男性で、失った恋人のことをずっと見守っているんです。2つ目の視点は、その恋人(「きみ」)。3つ目の視点は、また別の女性(「おさななじみ」)なんです。

――あなたのアニメでは脚の表現が重要だという指摘が多いのですが、『Garden of Remembrance』の女性キャラクターは、他のアニメの少女たちに比べて、どちらかというと太い脚をしていますよね。(漫画家の)水沢悦子に太めのキャラクターをデザインしてもらったとうかがっているのですが、なぜ、そのようなデザインを選んだのでしょうか?

山田:太めの脚は、デザインした方が持ち込んできたのではなくて、私がもともと水沢さんのデザインや絵がとても好きで、今回のプロジェクトに参加してもらったんですよ。彼女の描く女の子は、大体ムチムチしているんです。ご指摘のとおり、アニメのキャラクターよりはぽっちゃりとしています。社会的にかくあるべきとされているような容姿からはズレているわけです。だけど、その描かれたキャラクターたちが呼び覚ます質感が……、肌にふれることができそうな気がするんですね。寝起きでヨダレの匂いがしてくるような。そんな特徴が大好きだったので、彼女に声をかけたんです。

――以前『映画 聲の形』についてインタビューした際、「これまでとは異なる映画になりましたか?」という質問をしたところ、「それほど変わってはいません」と回答されていました。『Garden of Remembrance』についても同じ質問をしたいのですが、あなたの新たな方向性を示しているのでしょうか?

山田:私が、やりたいこと、目指していることの芯になる部分はあまり変わっていないと思います。どうして私がアニメを作るのかというと、人間という存在をとても大切に思っているからなんです。誰もが考えたり感じたりしていることや感情として経験していることに私は深い敬意を払っていますし、キャラクターたちのプライバシーについてもきちんと尊重したいのです。だから、彼らを描くときには配慮をもっていたい。そのことは、何を作るにしてもこれから先も変わらないと思いますね。アニメーションを作るにあたっては、いつも彼らへの尊敬の念を抱いています。

今回のサイエンスSARUとのコラボレーションもそうですが、これから先も、違うジャンルになるかもしれないし、主人公やその性格が変わることはあるかもしれませんが、私がやりたいことの芯の部分はずっと変わらないでしょう。

――初期の作品についても、いくつかお訊きします。一部のアニメファンは『らき☆すた』や『けいおん!』は、女子学生のグループをのんびりと描くゼロ年代の流行の一翼を担っていたと考えています。これが当時の流行であったことに同意されますか? もしそうなら、どうしてそのような流行が起こったと考えていますか?

山田:『らき☆すた』は別の監督ですね。私も京都アニメーションにいた頃ですので参加してはいますが。高校生のキャラクターをたくさん出す風潮はありましたし、当時の流行がまるで時代の特色だったかのように捉えている人もいるのかもしれませんね。ですが私自身は、その時代に沿ったアニメーションを作ろうとは思っていませんし、流行にはなるべく左右されないようにしています。それは、先ほど話したような理由からです。私は、キャラクターの感情を大切にしたいですし、それは、どんな時代であっても変わることはないでしょう。ですから、流行には意識を向けないようにしているんです。

――質問の続きになりますが、『けいおん!』は男性のアニメファン向けに製作されていたという指摘があります。しかし実際には、日本で『けいおん!』を熱心に見た層は女性率が高かったとも言われています。このことについて、何かおっしゃりたいことはありますか?

山田:ええ、プロデューサーたちが最初に目指していたというのは間違いありません。けれど、私が『けいおん!』を作っていた時は、そのような方向性だったとは考えてもみませんでした。私が意識していたのは……、ただ純粋に彼女たちの可愛らしさやひたむきさに心を動かされて、それをなんとか視聴者に伝えようと思っていたんです。プロデューサーたちが商業的な姿勢だとか狙いをあまり押しつけてこなかったことが『けいおん!』が受け入れられた秘訣だったのかもしれませんね。

――2017年にグラスゴーに来てくださった際、『聲の形』には恋愛の要素が含まれているが、ラブストーリーはもっとも重要な要素というわけではない、とおっしゃっていましたね。では、『リズと青い鳥』は主としてラブストーリーであると言えるのでしょうか。同性愛のラブストーリーだと明言して頂いてもよろしいでしょうか? 少女たちの中で、少なくとも みぞれは同性愛者なわけですよね?

山田:『リズと青い鳥』は、『たまこラブストーリー』もそうですが、いまお話にあった通り、同性愛者のラブストーリーとして読み取ってくださる人が多いのです。ですが、そこはあまり意図していたわけではありません。もう少し説明すると、ある性的指向を表現したというよりは、思春期を表現したのです。その数年間は、友情であったり、他人への執着であったり、依存心であったり、あらゆるものが重たくなります......。住んでいる世界が閉ざされているからです。私が描こうとしたのは、10代の青春を生きることがいかに大変なのか、そこにはどのような傾向があるのかということでした。

ですから、「はい、彼女たちは同性愛者で、これはラブストーリーです」というような単純な話にはならないのです。なぜかといえば、彼女たちが将来どんな相手と恋に落ちるのか、どう成長していくのか、私には何も説明することができないからです。描かれているのは、あくまでもその時の彼女たちの姿なんです。わかりづらい回答になりましたが。

――最後の質問です。これから、サイエンスSARUで長編映画を監督すると伝わってきましたが、本当なのでしょうか?

山田:ええ、サイエンスSARUと私とで長編の企画が進んでいます。今は絵コンテを描いています。これは大変な作業で、かなり頭を悩ませているところです。

www.animenewsnetwork.com