cinemania 映画の記録

cinemania’s diary

スタンリー・キューブリックの「作られなかった幻の映画」をめぐって 後編:『アーリアン・ペーパーズ』と『A.I.』

6.『アーリアン・ペーパーズ』 7.『スーパートイズ』から『A.I.』へ 8.死後 9.追補 参考資料 6.『アーリアン・ペーパーズ』 前編で見てきたように、キューブリックはキャリアの初期から戦争という主題を取り上げてきた。その興味は、まず第二次世…

スタンリー・キューブリックの「作られなかった幻の映画」をめぐって 前編:犯罪と嫉妬と戦争、『ナポレオン』

0.はじめに 1.犯罪映画と戦争映画 2.さまざまな題材 3.『ナポレオン』 史上もっとも有名な”作られなかった名画” 4.ナチスへの関心 5.1980年代 0.はじめに 映画研究者のフィリッポ・アルヴィエリによれば、確認できるスタンリー・キューブ…

「A.I.は新たなマッキンゼー・アンド・カンパニーになるのだろうか?」テッド・チャンが問うA.I.驚異論。「私たちは誰もがラッダイトになるべきだ」

人工知能について語ろうとするとき、私たちは比喩に頼りがちです。新規なものや馴染みの薄いものを扱うときは大体そうなります。比喩は本質的に不完全なものですし、選択は慎重にする必要があります。良くない比喩は私たちを惑わせるからです。たとえば、強…

渡辺信一郎監督がキャリアと『カウボーイビバップ』を振り返る。「実写版はオープニングで見るのを止めた」

・最も成功をおさめたアニメ監督の一人がオリジナルの『カウボーイビバップ』の作者として知られる渡辺信一郎だ。その長く波乱に満ちたキャリアについて話を聞く機会を得た事は、私にとってまたとない喜びだった。・もとから映画づくりに興味を持っていた渡…

ジェームズ・キャメロンは『アバター』に10億ドルを賭けた――『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の内幕

しばらく前、ジェームズ・キャメロンが最初の『アバター』を作り終えた後、彼の子供たちが家族会議を開いて、彼の子育てについて忌憚のない意見を述べた。2006年にキャメロンの妻スージー・エイミス・キャメロンがカルフォニアのカラバサスに設立した私立学…

山田尚子監督、ロンドンで新作『Garden of Remembrance』と過去作を語る。――『けいおん!』は男性向け?『リズと青い鳥』は同性愛物?

人気監督の山田尚子が英国を訪れるのは、この10月が初めてではありませんでした。2012年に開催された「スコットランド・ラブズ・アニメ」のゲストとして『映画けいおん!』の上映会に登壇しているのです。偶然ですが、この映画もロンドンが舞台で、愛らしい…

マイケル・チミノ監督と幻の映画企画たちについて

2016年に77歳で亡くなった映画監督マイケル・チミノは、生涯にわずか7本の長編作品しか残さなかった。デビュー作『サンダーボルト』を経て第2作『ディア・ハンター』でアカデミー賞・作品賞、監督賞など5部門を受賞し、早くもキャリアの頂点に立ったチミノは…

「ヴァラエティ」誌が選ぶNetflixで配信中の日本アニメベスト20本(2021年版)

待望されていたNetflixの実写版『カウボーイビバップ』の公開によって、1998年のオリジナルシリーズへの注目が再び集まっており、日本のアニメがメインストリームにおいて文化的な浸透を果たしつつある事が改めて鮮明になった。 アメリカでのアニメ人気は今…

【インタビュー】クリント・イーストウッド『クライ・マッチョ(Cry Macho)』で再び馬を駆る

――あなたは、ご自身の映画を自分のために選んでいるのですか、それとも人々にどう思われるか気にかけているのでしょうか。どちらとも言えるかな。ただ『Cry Macho』は、ちょっと違うんだ。この物語に出会ったのは、もう40年も前のことだからね。俺は、このキ…

細田守「日本のアニメーションは女性と少女の描き方に問題がある」

細田守は、スティーヴン・スピルバーグと宮崎駿――彼がしばしば比較の対象となる日本の偉大なるアニメーターだ――の映画に対して不満を抱えている。 今から3年前、素晴らしくて人間味にあふれた『未来のミライ』がアカデミー賞にノミネートされた頃、細田はハ…

ビクトル・エリセは語る~映画の過去と現在、そして可能性~

2014年、ビクトル・エリセ監督は、スイスのロカルノ国際映画祭で生涯功労賞を受賞した。8月13日、会場で催されたシンポジウムで映画について語り、聴衆からの質問に答えた。進行役は、旧友でもある映画評論家・大学教授のミゲル・マリアスがつとめた。●司会 …

『Mank/マンク』は、いかに歴史的事実を改変したのか――マンキーウィッツの英雄化とオーソン・ウェルズの矮小化

デヴィッド・フィンチャー監督の『Mank/マンク』は、実在の脚本家ハーマン・マンキーウィッツの伝記映画である。物語は、彼が代表作である『市民ケーン』の脚本を執筆していた1940年3月から5月にかけての出来事が中心となり、そこに1930年代のさまざまなエピ…

「児童ポルノ」か「社会批判」か――Netflix映画『キューティーズ!』が遭遇したボイコットをめぐって

映画『キューティーズ!』の二つのアートワーク『キューティーズ!』というささやかなフランス映画が、大きな騒動の真っ直中にある。監督のマイモウナ・ドゥクレは、セネガル系フランス人で、本作は彼女の長編映画デビュー作にあたる。 映画の主人公は、11歳の…

「ウディ・アレンは無実だ」英ガーディアン誌インタビュー取材~映画『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』公開記念

『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』撮影現場より ウディ・アレンが20歳だった頃、作家のダニー・サイモンからコメディに関するいくつかのルールを教わったが、その中でも最も重要なことは「外部の意見は無意味だから、常に自分の判断を信じろ」ということ…

ジェームズ・キャメロンのパーソナルエッセイ「映画の過去、現在、そして未来へ」

映画監督になる夢を抱く前から、私は映画を愛していました。子供の頃、私は1950年代に作られた古いB級SF映画を全て暗記していました。クリスマスに手に入れた小さなオーディオカセット・レコーダーに録音しては聞き返して、頭の中でも再生していました。そう…

小野寺系による『旅する黒澤明 槙田寿文ポスター・コレクションより』をめぐる雑文がタイトル詐欺だった話

本当は別の記事を出す予定だったのですが、うっかり酷い文章を目にしてしまい朝から気分も体調も悪い。タイトルは「世界のアーティストは黒澤映画をどう表現した? 海外版ポスターから浮かび上がる、黒澤明の新たな姿」と、非常に立派なのだが、読者は、そこ…

小野寺系はなぜ映画評論家と呼ぶに値しないのか――アメコミ、アート、アニメ、そして映画

今回も前置きは抜きにして始めるが、小野寺系なる人の映画評なるものは本当に酷い。正直ここまで駄目だとは思わなかった。例えば、『ニンジャ・バットマン』に関する雑文である。本人はTwitterで「原作コミックやノーラン版映画との比較を通し、内包するテー…

マイケル・ムーアはクリント・イーストウッドの『アメリカン・スナイパー』を、どのように称賛したか。

どうやら、マイケル・ムーア監督がクリント・イーストウッド監督の『アメリカン・スナイパー』を徹底的に否定しているとでも言わんばかりのデマを流し続けている方がいるらしいので、公開当時のインタビューから、該当する箇所を抜粋して紹介しておこう。(…

小野寺系による当ブログをめぐるデマに応答しておきます。

小野寺系という方が、ご自分のツイッターで当ブログの過去記事*1に関してデマを流していたので、主に事実関係についての訂正をごく簡単にしておきます。小野寺系 on Twitter: "そもそも『インビクタス』をいま絶賛することでメディアが得をすることなんてな…

クリント・イーストウッドは日本で高く評価されすぎているという説は本当なのか――荻野洋一『リチャード・ジュエル』論の問題点をめぐって

荻野洋一のコラム「『リチャード・ジュエル』が誘う終わりのない問い イーストウッドの“悪意”を受け考えるべきこと」を読んだ。批判の内容そのものにも、あまり感心しなかったのであるが、それはおいおい語るとして、それ以前に困ったのは、冒頭の以下のよう…

キネマ旬報『リチャード・ジュエル』特集の町山広美の文章が酷かった

キネマ旬報2020年2月上旬号の『リチャード・ジュエル』特集に掲載された町山広美の文章が酷かった。映画の内容とは関係なく、イーストウッドはトランプ支持だと非難して、彼の作品を支持する人たちまでも揶揄する。最後も唐突に「戦争が始まろうとしている」…

Netflixが 2020年に配信するオリジナル映画 28作品

ALL THE BRIGHT PLACES1.『グレイス-消えゆく幸せ-』A FALL FROM GRACE タイラー・ペリー製作・監督によるサスペンス。クリスタル・フォックスが夫を殺した容疑で逮捕された女性を演じる。共演はフィリシア・ラシャド、ブレシャ・ウェッブ。1月17日配信。2…

ウディ・アレンが「幼児虐待」の醜聞を乗り越えるまで

ウディ・アレンの新作『A Rainy Day in New York』がフランスで公開された。過去の幼児虐待疑惑により、バッシングを受けていたアレンだが、キャリアは復活しつつある。

「Netflix最強コンテンツ、『ストレンジャー・シングス』が変えたもの」(宇野維正 )で、本当は変わっていないもの。

基本的に苦手な人の文章は、なるべく見ないようにしているのだが、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』に関するコラムということで、目についてしまった。作品そのものではなく、宣伝についての話だ。news.yahoo.co.jp 宇野はまず、1985年が舞台となる…

ル・モンドの批評家たちを熱狂させた1944年以降の映画100本

『河』ジャン・ルノワール (1951) 『雨月物語』溝口健二 (1953) 『東京物語』小津安二郎 (1953) 『七人の侍』黒澤明 (1954) 『奇跡』カール・テオ・ドライヤー (1955) 『理由なき反抗』ニコラス・レイ (1955) 『めまい』アルフレッド・ヒッチコック (1958) …

てらさわホーク『マーベル映画究極批評』の問題点について

特に前置きもなく始めるが、まず、最初に気になった点。本書には出典の表記が見当たらないのである。 最近、幻冬舎から歴史書という触れ込みで出版された『日本国紀』が、他の文献やウェブからの多数の転載があるにもかかわらず参照元の表記がない点で、厳し…

宇野維正の「なぜ日本では世界的ヒットのアメコミ映画が当たらないのか?」の、事実誤認について。

とあるインタビューを読んだ。 https://www.sbbit.jp/article/cont1/36447 まず、冒頭部分の「映画・音楽ジャーナリストでアメコミ映画にも詳しい宇野維正氏にぶつけてみた」というくだりで、ひどく驚いた。この人が、これまでアメコミについて書いたり話し…

トレヴェニアンが、初心者のために選ぶ1970年以前のベスト映画100

「これら約100本の映画は、昨今の、意識に訴えかけるのではなく、末梢神経を刺激するようにデザインされた、騒がしくインパクト重視で暴力的な映画に曝されることで映画のリテラシーが変化してもなお、一般大衆にとって、娯楽としての価値と重要性を維持して…

『アベンジャーズ/エンドゲーム』脚本家 クリストファー・マーカス、スティーヴン・マクフィリー インタビュー

◯ターニング・ポイントの設定 ーー『インフィニティ・ウォー』と『エンドゲーム』において、大きな出来事を、どのように配置していったのでしょうか。 クリストファー・マーカス:最大のポイントは、スナップ(指パッチン)ですね。『IW』の最後にやっておか…

作られなかった映画たち スタンリーキューブリック編

スタンリー・キューブリックの生涯については、すでに多くの研究書が出版されている。それらを元に、幻の企画を追ってみよう。 自主制作という形で映画作りを始めたキューブリックが注目を浴びたのは、監督第3作の『現金に体を張れ』だった。MGMのプロデュー…